超モダンデザインのルーツは玉塚古墳

 我国の古墳数は約20万と推定される。このうち装飾古墳は610。但し装飾というイメージにかなう古墳はこの1割である。約60の装飾古墳で白眉(はくび)と評価が高いのは、福岡県嘉穂郡桂川町の王塚古墳と熊本県山鹿市のチブサン古墳の2つである。今回は王塚古墳に絞って玄室内をリポートする。

 玉利 勲氏の『装飾古墳』(平凡社カラー新書)によると昭和9年10月7日付の『福岡日日新聞』朝刊は「四色絢爛たる日本随一を誇る大壁画の古墳発見。色鮮やかに残る太古の絵巻物・・・・」と報道したという。

 日本で確認されている装飾古墳壁画の色数はフリー百科事典『ウィキペディア』によると6色(赤・黄・緑・青・黒・白)である。殆どの装飾古墳は3色以下だが、王塚古墳では青を除く5色が使われている。その意味でも極めてカラフル。葬られた貴人も退屈しないに違いない。
 使われている顔料は科学分析の結果、「赤色」はベンガラ(酸化鉄)、「黒色」は鉄とマンガ土を含む黒色鉱物、「緑色」は緑色岩粉末(海緑石)、「青色」は緑色岩粉末(緑泥石)、「黄色」は黄色粘土と特定された。だが科学は日進月歩、最新の分析機器はこれまで「青色」としていた顔料を「灰色が変色したもの」と結論づけている。その詳細は割愛するとして、素晴らしいのは色使いだけでなく文様が一千数百年前の古墳時代にも拘らず超モダンなことである。おそらく現代のラグやカーテンに採用しても違和感はないはずだ。それどころか大ヒットの予感すらある。ところで激賞の文様だが古墳を最初に調査した小林氏は次の4種類に分類している。
 ①馬
 ②盾(たて)と靫(ゆぎ)
 ③双脚輪状文(そうきゃくりんじょうもん)と蕨手文(わらびでもん)
 ④四種類の三角文と珠文(しゅもん)

 ①と②は、動物や武具を題材とした具象文様なので私達もイメージし易い。但し②の「靫」は普段接しない単語で意味は「木や革で作った矢を入れて携帯する容器」である。もっとも具象文様とはいえ古代人特有の豊かな感性でデフォルメしているので一見しただけでは分からない。対照的に③と④は、幾何学的な抽象文様だけに写真を見なければイメージは難しい。補足すると双脚輪状文とは輪状、即ち円に2本のタコ足のようなものが付いたデザイン。蕨手文とは蕨が横につながっているデザイン。④の三角文と珠文は三角形ないしは円形を連続させたデザインである。どれもが素晴らしく、インテリアデザインとして直ぐに活用できるものばかりだ。そのような夢物語を想像しながら装飾古墳を訪ねる旅も乙なものである。

 

写真:玉塚古墳(福岡県)の玄室内部